LONCO JOURNAL ロンコ・ジャーナル

PHILOSOPHY

  • 2020.07
  • 『コロナ禍後の物流』

1.自粛要請による家庭用商品の需要増、業務用商品の需要減

(1)新型コロナの蔓延
日本国内での初めての感染報告は、今年の1月15日頃であった。1月下旬頃を振り返ってみると、『手洗い・寒気が有効的だと言われています。』という報道記事があり、今ほどの切迫感は無いように感じられた。
その後の経過は皆さんもご存じのとおり、感染の拡大が止まらず、生活や経済活動の自粛要請に至った。
(2)活動自粛に伴う歪みと変化
生活活動の自粛に伴い、これまでの日常が一変した。
特に生活必需品に関する変化は大きく、特に誤った情報による極端な購買活動(買い占めなど)によって、小売店にて欠品が発生し、その状況をメディアが報道することで多くの人が知ることとなり、更に多くの人が極端な購買行動に出るという悪循環をもたらした。 あるメディア関係の方が、『デマ情報によって欠品していることも、流通在庫が潤沢にあることも、事実としての報道は必要であると思っているが、結果として煽ることになり、報道する側の人間として責任を感じる。』と伝えていた。
特に2月下旬に発生した家庭紙(トイレット&ティッシュペーパー)の欠品は、在庫情報の共有化・在庫の偏在化・需要波動に対するインフラの許容度・小売店舗側受け入れ体制などのロジスティクス上の歪みを顕在化したが、その短期的な解決方法として、物流現場側がフル回転で欠品解消に対応していた。
食品関係では、家庭用商品の需要が増加し、業務用商品の需要が減少したことで、同じ食品業界の企業でも影響の温度差が非常に大きく出ており、これに伴い物流現場への負荷も高いものとなっている。
また、今回のコロナ禍を機に、働き方を含めた生活行動も大きく変化しつつある。
ソーシャルディスタンスの確保の観点から、時間差通勤やテレワーク化が推進され、これまでの日本の労働環境とサービスレベルに関する概念を再考する要因となった。

2.物流環境に求められる変化

事務系業務はテレワークへの移行は比較的しやすいものの、物理的作業を伴う物流現場では、ソーシャルディスタンスの確保はなかなかすぐに対応できるものではない。 とは言いつつ、対策を取らなければ自社現場における人材の確保が難しくなっていくことが予想される。 私はこれまで、物流現場は自動化と人的対応力の二極化が進むと伝えてきているが、今回のコロナ禍によって、自動化の推進が進みやすくなる(取り組まざるを得ない)環境が揃いつつあるように感じられる。

自動化の取り組みの壁の一つが、高いサービスレベルへの対応となっており、様々な顧客要求に対して対応してきた物流現場では、なかなか自動化技術を導入するだけの費用対効果の見込める作業工程と物量を確保することができなかった。 しかしながら、今回の事象はサービスレベルに関する見直しを受け入れるきっかけにできると感じている。

通常フローとは違う対応の発生は、物流現場を混乱化させ、効率を落とす大きな要因となっている。しかしながら、この対応力の高さが顧客からの信頼を得、期待感となり、契約の継続化につながってきたことは否めない。
また、物流現場が混乱する、効率的に業務の遂行ができない理由の一つは、正しい情報が素早く届かないことにある。 当初の計画通りに情報とモノが流れてくれば、物流現場はローコストで高品質な物流サービスを提供することができる。
これは私が荷主向けセミナー等で話している良い物流を実現するためのポイントである。

しかしながら、現実には様々なイレギュラーが発生しており、商流に基づく後工程としての物流への指示は、対応せざるを得ないものとなっており、現場の整流化は一部でしか実現できていないことが現実である。
ただし、今後はこのようなイレギュラー対応に対しては、サービスレベルの見直しをするか、イレギュラーを通常業務として取り込んだ仕組み(システムや料金体系など)に変えていかなければ、対応できる現場が減っていくのではないだろうか。

これまでは、物流企業側が過当競争の市場でもあったために、料金の安さや、対応力・品質の高さなどによって荷主企業から選定される側であったが、今後は荷主企業側の方が、物流会社から運んであげても良い企業として選定されることがますます増えていくようになっていくことも十分考えられるようになってきたと思う。
状況が落ち着いてくれば、一旦は以前の状態に戻ろうとの力が働くとは思うが、新型コロナによる不安や影響は大きく、テレワークの定着化も技術の進歩を踏まえて、進んでいくことが予想される。

私たちの物流現場においても、自動化技術に対する感度は高く持ったうえで、リアル空間における環境の整備を積極的に確実に行うことで、現場で働くメンバーの心理的不安を軽減し、前向きな気持ちで業務に取り組める現場環境を作ることがますます求められている。

石 橋 岳 人

石橋 岳人(いしばし たけと)

神奈川大学経済学部経済学科卒。大学卒業後、株式会社船井総合研究所入社、流通業を中心としたコンサルティング活動・指導業務を経て、1998年 物流コンサルティング会社入社。同社取締役を経て、2005年1月、ロジスティクス・サポート&パートナーズ常務取締役に就任。 物流ABCを活用した利益の出せる得意先・作業管理の仕組みづくりや、物流企業の提案営業指導を得意としている。また、「見える化」手法を活用した“人時生産性”・“物流品質”・“モチベーション”に関する改善指導は好評を博している。